アマゾンで無料だったので読んでみたら、かなり感銘を受けた本です。
これは実話を基にした物語。
1899年(明治32年)5月20日、日本の帆船「龍睡丸」が時化に遭い、パールアンドハーミーズ環礁で座礁・難破した。
座礁した船は荒波によって徐々に破壊されていき、命の危険が迫った乗組員は近くの無人島に避難することになる。
SOSを出そうにも手段がない。
場所は日本からは数千キロ離れていて、外国船も滅多に通らない海域。
命は助かったとはいえ、飲料水をはじめ多くの物資が海に流されてしまっていた。
今後のことを思うと絶望しかないような状況である。
しかし・・・
船長をはじめとする十六人の乗組員は心が強かった。
「これから先、何年もここで暮らす事を想定しなければならない」という先が見えない状況にもかかわらず、船長の指揮のもと全員で力を合わせて逞しく生きていく。
わずかに残った資材や島でとれる草木や生物を利用し、知恵を結集して生活に活かす16人。
船長が言う。
「今までに無人島に流れついた船の人たちに、いろいろ不幸なことが起って、そのまま島の鬼となって死んで行ったりしたのは、「自分はもう生まれ故郷には帰れない」と絶望してしまったのが原因であった。私は、このことを心配している。今この島にいる人たちは、それこそ、一つぶよりの、本当の海の勇士であるけれども、ひょっとして、一人でも気が弱くなっては困る。一人一人がバラバラの気持ちではいけない。今日からは、厳格な規律のもとに、十六人が一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、しかも愉快に、本当に男らしく、毎日毎日を恥ずかしくなく暮らしていかなければならない。そして、立派な塾か道場にいるような気持ちで生活しなければならない。この島にいる間も、私は青年たちをしっかりと導いていきたいと思う。」
それに応えて、運転士が言う。
「島でカメや魚を食べて、ただ生きていたというだけでは、アザラシとたいした違いはありません。島にいる間、お互いに日本人として立派に生きて、他日お国のためになるように、うんと勉強しましょう」
漁業長も言う。
「私も船長と同じことを思っていました。私はこれまでに三度もえらいめにあって、九死に一生を得ています。大しけで帆柱が折れて漂流したり、乗っていた船が衝突して沈没したり、千島では、船が暗礁に乗りあげたりしました。その度に酷い苦労をしましたが、また色々教えられていい学問をしてきました。これから先、何年ここにいるか知れませんが、若い人たちのためになるよう一生けんめいにやりましょう」
さらに、水夫長が丁寧に一つおじぎをしてから言う。
「私は学問の方は何も知りません。しかし、幾度か命がけの危ない目に遭って、どうやら無事に通りぬけてきました。理屈はわかりませんが、実際のことなら大概のことはやりぬきます。生きていれば、いつかきっと、この無人島から助けられるのだと、若い人たちが気を落さないように、どんなつらい苦しいことがあっても、将来を楽しみに、毎日気持ちよく暮らすように、私が先にたって、腕と身体の続く限りやるつもりです」
先が全く見えない究極のサバイバル状況にもかかわらず、誇り高い精神を失わず持ち続けている描写には涙が出てくる。
彼らが上陸した無人島の半島には、アザラシの群れがいた。
そのことに対し、乗組員が皆に厳命しておいたことがある。
「アザラシのところへは誰も行くな。アザラシに人間を怖がらせてはいけない。大病人の出たとき、アザラシの胆(きも)を取って薬にすることもあろう。また、冬になってアザラシの毛皮をわれわれの着物にすることもあろう。いよいよ食物に困ったらその肉を食べよう。それには、いざという時すぐにつかまえなくてはなんの役にもたたない。われわれは小銃ひとつないのだ。手どりにしなければならないから、かれらに人間を怖がらせないように、誰もアザラシの近くに行くな」
しかし、動物好きの乗組員がこの禁を破ることとなる。
夜中にこっそりと抜けだし、アザラシに近づいてしまったのだ。
まだ人間を知らないアザラシ。警戒することなくすぐに乗組員と仲良くなった。
それからは、一人また一人と他の乗組員をアザラシに紹介していき、彼らの多くがアザラシの友達となってしまっていた。
そして、とうとうそれが運転士に知られることとなる。
アザラシに近づいたことは船長の命令に背くこと。
最初にアザラシと仲良くなった乗組員は、おそるおそる運転士の前に出て、正直に謝った。
運転士は、その乗組員がすっかりしおれている姿に、まっ正直な心があふれているのを見た。
「これからは気をつけるのだぞ。だが、せっかく友だちになったのだ。アザラシとはいつまでも仲良くしろよ」
そして、やがてどのアザラシも人間と仲良しになった。
いっしょに泳いだり、投げてやる木ぎれを口で受けとめたり、頭をなでてやるとひれのようになった前足で、軽く人をたたいたり、また、人間たちがアザラシ半島に近づくと、ほえて迎えに来たりした。
ところが、二十五頭のアザラシ群のなかに、ただ一頭だけ、いつもひと際いばって頭をもたげ、立派なヒゲをぴんとさせ、胸を反らしている雄アザラシがいた。
このアザラシは他のどのアザラシより強く、頭にはかみつかれた大傷があって、それがいっそう荒々しく強そうに見えた。
そして、このアザラシは決して人間を相手にしなかった。乗組員たちと友だちにならなかったのだ。
魚を投げてやっても横を向いて食べようともせず、 動物好きでアザラシならしの名人の乗組員でさえも近づくことができなかった。
ところが、どうした事か、「川口」という名の乗組員にだけはよくなつくようになった。
川口が与える魚を手のひらの上で食べ、川口がなでてやると喜んで大きなひれのような前足で、川口をばたばたたたいた。
川口がどんなに喜んだかは、はたで見ている者が微笑まれるほどであった。
川口は、この勇ましく強情なアザラシに、「むこう傷の鼻じろ」という名まえをつけた。それは、このアザラシには、鼻の上に一かたまりの白い毛が生えていたからだ。
この「鼻じろ」は、川口の自慢のもので、まるで弟のようにかわいがっていた。
さて、遭難して無人島に上陸した当初、十六人はひどい下痢をしたが、それもじきに良くなって、みんな元通り丈夫になった。
しかし、2名の乗組員だけは引き続いて弱っていた。
何かいい薬はないだろうかと皆で色々と相談した結果、「これはたぶん胆汁の不足からきた病気に違いなく、苦い薬を飲ませたら良いだろう。それにはアザラシの胆嚢をとって飲ませるのが一番いい」と話が決まり、さっそくアザラシの胆をとることになった。
ところが二人の病人は、「せっかくあんなに我々になついているアザラシを、私たち二人のために殺すのは、かわいそうでなりません。しばらく待ってください」と懇願する。
誰一人としてアザラシを殺したい者はいない。しかし、人間の命にはかえられないのだ。
結果、一番効き目のありそうな「鼻じろ」の胆をとることに決まってしまった。
「鼻じろ」を弟のようにかわいがっていた川口はどうするのであろうか。
そして、16名の乗組員の運命は・・・
続きは本編でお楽しみ下さい。
無人島に生きる十六人
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