先日、ある税理士の先生とお話をしました。
その方は横浜で永年税理士をやられていて、現在は息子さんとお二人で事務所を切り盛りしているそうです。
とはいっても、横浜の事務所はほぼ形だけ。
実際にはバーチャルオフィス化していて、郵便物の確認に週に1.2度行くだけ。実際の業務は遠方の自宅でやられているそうです。
私が驚いたのは、その先生の顧問料は最低で月に1万円らしいのです。(もちろんクライアントの規模によってはもっとかかりますが)
さらに、決算料は別途かからないそうです。という事は年間で12万円。
私も会計士事務所経験があり、ある程度の報酬相場がわかるのですが、これは驚くべき安さです。
小規模なクライアントであっても、先方またはその管轄の税務署や役所まで何度も足を運ぶ交通費や郵便代だけでも結構費用はかかるのに、なぜ月々1万円で採算がとれるのか。
その先生は、freee会計やMFクラウド等、クラウド会計ソフトを他事務所よりもいち早く導入しているそうです。
これは、会計データをクラウド上に保存し、税理士・クライアント共にデータを共有することができる便利なソフトです。
さらに、その先生は決算申告に電子認証・電子申告を利用しているとのこと。
従来は、税理士が決算書類を作成し、その現物(紙の書類)をクライアントが目を通して署名捺印。それから税務署に提出という流れでした。
そのため、税理士はいちいちクライアントの元まで足を運び、署名捺印をもらい、さらに税務署に出向く必要があったわけです。
場合によっては、「飛行機を使って遠方のクライアントまで出向く」などというケースもあったというから驚きですね。これはレアケースかもしれませんが。
いずれにしても、結構な手間と時間と費用がかかるわけです。
これが電子認証になると、クライアントの署名捺印がネットを通じてのやりとりで完了します。
さらに、電子申告をするという事は、同じくネットを通じて税務署への決算申告が完了してしまうという事です。
これは、驚くべき時短効果になります。
たとえ顧問料が月々1万円でも、先生は浮いた時間を他の事に使えるというわけですね。
「士業の資格を取っただけでは食っていけない」と言われる昨今。
例えば、弁護士であっても資格をとっただけではやっていくのは難しいと聞いた事があります。
私のような一般人の感覚だと、「弁護士の資格を取ったら食いっぱぐれない」「弁護士資格さえとれば、もう安泰」という気がしますが、決してそんなことはないようです。
弁護士同士で「顧客の取り合い状態」が起こっていて、食べて行くのはなかなか難しいというのです。
法律資格の最高峰であってもそのような状態ですから、税理士だって同じなわけです。
税理士資格を取る人は多いです。
しかし、「開業しても食べていけない人が多い」のが現実です。
「その税理士は開業して長く、それなりに顧客も多いからやっていけるのだろう」。
もちろんそれもありますよね。
しかし、古くからのクライアントがいつまでも顧問契約を結んでくれるとは限りません。
クライアントの社長が代替わりするタイミングで、それまで付き合いのあった税理士事務所から大手の税理士事務所に変更するケースが多くなっているからです。
たとえ付き合いが長くても、いつまでも旧態依然の顧問をしていれば、たちまち他に変更されてしまいます。
ですから、永年開業していても安泰ではないということです。
その先生の事務所は、顧客の取り合いをするでもなく大きな顧客離れもなく十分にやっていけているそうです。
それは、クラウド会計や電子認証・電子申告等のITを導入する等、クライアントにとって有益な提案をし続けているからでしょう。
そして、顧問料が安いからこそ、新規立ち上げ法人からの顧問依頼も絶えません。
私はその話を聞きながら、ダーウィンの進化論を思い出しました。
最も強い者や賢い者が生き残るのではない。
時代の変化に対応できる者が生き残っていく。
(これが本当にダーウィンの言葉なのかどうかということは議論されているようですが)
誰もが知っているような大企業、有名企業であってもいつ倒産するかわからない現代。
逆に、体力の少ない中小零細企業または個人事業主であっても、上手に効率化を図れば生き延びていけるという事例ですね。
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